言葉ではそう言ってはいても、高橋は怒っているような表情ではなかった。
元々仕事にはストイックで厳しい方、けれど女の子には確かな目を持っている人で、異例の早さでTHREEの副店長に抜擢された。
何度も言い合いもしたし、厳しい言葉を投げかけて、やけになっていた時には元気づけてくれた。言葉だけを並べたならばそれは優しいものだけではなかったけど、厳しさの中に優しさを秘めている、わたしの初めての担当の人だった。
「まぁそんな事より、結構いまお店が大変なんだ。
美優の指名客かなりの人数入ってるし、さっそくだけど美優、席についてもらえるか?
後、さくらたちが来たらVIP入るかと思ったんだけど、どっちも美優のお客さんが入ってるから、普通のとこしか空いてねぇんだけど」
「いいよ!そんなの全然!
今日は美優ちゃんが主役の日なんだから、美優ちゃんのお客さんを優先的にいれてつけてあげて」
「ごめんね!さくらと涼くん!!じゃああたし着替えてきます」
両手を合わせて申し訳なさそうに微笑む美優は、少しだけ足早に更衣室へ向かっていった。
わたしと涼は高橋に席まで案内される。お店は大盛況で、美優を指名しているお客さんがちらほらと見える。
そして、忙しそうに動くキャストたちの中に、わたしはあの人を見つけてしまう。
菫………。
ちょうど付け回しに呼ばれた菫はソファーから立ち上がり、こちらへ向かって歩いてくる。
相変わらず綺麗な人。綺麗で妖艶な朝日の昔の彼女は、結婚してキャバ嬢を引退したけれど、光が七色グループを辞めて困っている時に朝日に声を掛けられて、再びキャバ嬢として働きだした人。
そして今でもTHREEで働いている。沢村から聞いた話だと、今ではTHREEの顔になるほどの人気キャストだそうだ。現役時代から相当人気があったらしいが、その実力は今でも健在のようで美優の最後の日でも、彼女自身のお客さんが何組か被っているようだ。



