「さくらが何もなくて簡単に店を飛ぶような子じゃないって俺は知ってるから、だから案外心配してなかったよ。
お前は責任感も人一倍強いし、他の子たちと違って色々な事を割り切れるような奴じゃないから、きっと辛かったんだろうな?
今日は会えて嬉しいよ。双葉でバースデーもすごかったって、由真さんから聞いてるよ。本当によく頑張った」

シーズンズに居た頃からどんな時でも味方でいてくれた。わたしの働きやすいように気をくばってくれて、初めて会った時は不愛想で怖い人だって思ったけど、心の底がとても温かい人だってわたしは知っている。
どんな店長に出会ったって深海の作る店ほど居心地の良いお店なんて、出会えそうにないよ。

「あとでTHREEにも行くんだろう?高橋も口は悪いけどお前の事はいつも気にかけてるから…」

「高橋くん…」

高橋は、わたしにまだ笑いかけてくれるだろうか。
ずっと一緒に頑張り続けてきたのに、裏切るような行為をしたのは紛れもない自分だ。
許してほしい、なんて言えない。それでもきちんと顔を見て謝りたい。

「まぁ、とりあえず、これは俺からのお祝いのシャンパンだ。
美優、本当に今までごくろうさん」

「そぉ~だよ!今日の主役はあたし~!あたし~!
今日はめっちゃ飲むぞ~!吐くまで飲むぞ~!死んでも飲むぞ~!」

ポンっとシャンパンの開く音がして、皆に笑顔が戻った。
大好きだったお店で、大切な仲間たちと笑いあえていた場所。
ここに、また大切な人たちと来れるなんて思わなかった。
わたしたちは美優の出勤時間ギリギリまで、シーズンズで盛り上がっていた。
午後9時になる少し前にシーズンズを出て、THREEへと向かう。「また後でね」と綾乃とはるなはわたしたちを送り出してくれた。