わたしには築けない。
どこにでも落ちているような幸せを、見つけてふたりで歩いていくのは、思っているよりずっと難しい。
「何か~…のろけられてるよね~…」
「はぁ…これだから付き合いたてのカップルは…」
「あたしの為にVIPとったんじゃなくて、あんたらがいちゃいちゃするためにとったんだろ~!深海さんに言いつけてやるぅ~!」
美優がふたりを指さしながら大笑いしていると、VIPのドアがゆっくりと開けられた。
その先には
「深海さん!!」
わたしは深海を見つけて慌てて駆け寄る。
派手に笑う人では元々なかったけど、笑うと線になる柔らかい瞳が、今日はいつもより嬉しそうに微笑んでいる。
わたしの短くなった髪に指を通して、優しく撫でる。
「さくら、久しぶり…。あんな綺麗な髪なのに随分ばっさり切ったんだな…。でもとっても似合うよ」
「あたし…あたし…深海さんからも連絡沢山もらってたのに…何も返せずに本当にごめんなさい!
今日も本当は会うのが怖くて…」
わたしを見つめる深海の瞳がやっぱり優しいから、なんだか泣きそうになってしまう。



