でも、ムリだ。

一ノ瀬くんと一ヶ月も寝食をともにするなんて、私以上にきっと、一ノ瀬くんが困る。


断らなくちゃ。

一ノ瀬くんは断りにくいだろうから、私がちゃんと言わないと。


「あの……やっぱり、このお話は」


なかったことにしてください、と続けようとした時、袖をくいと引かれた。

ハッと下を見ると、春陽くんが大きな目をうるうるさせて私を見上げていた。


「梓おねえちゃん……?」


うちに、来てくれないの?

と、春陽くんがいまにも泣き出しそうな顔で無言で訴えてくる。


足元にいる真っ白なわんちゃんとそっくりの、小さくてかわいいかわいい陽向くん。

その破壊力に胸がぎゅぎゅぎゅ~っと締め付けられ、もうダメだった。

この可愛さに勝てる人間がいたら教えてほしい。


私にはムリだった。

可愛いって無敵だと思う。