突然高橋くんがそう言い出して、内心首を傾げる。

あの時のことって……?


「前に佐倉さんが痴漢に遭った時、真っ先に気づいて助けに入ったの、一ノ瀬だったよね」

「……え?」

「それなのにあいつ、自分は見た目が恐いだろうからって、俺が助けたことにさせようとしたんだよね。かっこつけちゃってさ」


実際かっこいいからタチ悪いよな、と笑う高橋くんに、私は笑い返せなかった。


前に私が痴漢に遭った時、助けてくれたのは高橋くんじゃなかった?

あれは、あの時の男を追い払ってくれたのは、高橋くんじゃなくて、


本当は一ノ瀬くんだった――?



「うそ……」

「佐倉さん? どうしたの?」


いまになって知らされた真実が衝撃的すぎて、動けない。

あの時も、助けてくれたのは一ノ瀬くんだったなんて。


「うそぉ……」