少し前も廊下で……そうだ。

あの時も廊下の向こうに高橋くんがいた。

まるで高橋くんと私を会わせたくないみたいな態度だった気がする。


「佐倉さん、いつの間にかすっかり一ノ瀬と打ち解けたみたいだね?」

「え? ああ……うん。高橋くんの言っていた意味が、よくわかったから。一ノ瀬くんて、本当に優しい人だね」

「だろ? あいつ、ほんといい奴なんだよ。ああいう見た目だから、女子にまとわりつかれてうんざりして、わざと冷たい態度とったりしてるけど、優しいんだよ。本当に困ってる人は見捨てておけないし」

「そうだよね。私、一ノ瀬くんには何度も助けてもらったし」


痴漢やストーカーから、彼は私を1ヶ月守り続けてくれた。

彼女に悪いと感じるくらい、優しくしてもらった。

好きになってしまうくらい、大切にしてもらった。


私は彼に、何も返せていないのに。



「あ。もしかして佐倉さん、あの時のこと気づいてたんだ?」