「梓ちゃんは学校があるでしょう? だからね、梓ちゃんを一ヶ月預かってもらえるようお願いしたの」

「お願いしたって、誰に?」

「私のお友だちによ。そしたら快く引き受けてくれて、楽しみだってウキウキしてたわ」

「ええっ? もう頼んでOKもらってるんだ?」


のんびり屋のお母さんにしては行動が早くてびっくりした。


「だって週明けには日本を立たなきゃいけないんだもの。急がないと」

「それはいくらなんでも急すぎない……?」

心の準備がまるでできないまま、両親を見送って人様のお家に厄介にならなくちゃいけないなんて。

私の不安をよそに、お母さんはご機嫌で「大丈夫よう」と笑う。

その手元には、南の島のガイドブック。

今回の赴任先がリゾート地だったから、もう観光気分なんだろう。

正直、娘の私の心配より、南の島で何をするかに頭を持っていかれているんじゃないかと疑ってしまう。