手を振り払われたって構うもんか。

笑わせてやれないなら、俺にできるのは守ることくらいなんだ。


俺の言動に一瞬ムッとした顔になった春陽が、負けじと佐倉にアピールしている。

マセガキめ。

まさか本気で佐倉を狙ってるんじゃないだろうな。


佐倉は気づかなかったけど、彼女を挟んで俺たち兄弟は火花を散らした。


『ガキは引っ込んでろ。いくら猫かぶったところで、小学生なんて対象外なんだよ』

『そっちこそ中途半端に邪魔してこないでよ。梓おねえちゃんに避けられてるくせに』


声に出さなくても視線だけで兄弟げんかは成り立つ。

こいつは絶対に、佐倉の言うような天使なんかじゃない。

可愛い見た目で牙と爪を隠した、小さな肉食獣だ。


佐倉は俺たちの様子に気づかなかったが、母さんは『こいつらに任せて本当に大丈夫なのか』と言いたげな、思い切り不安そうな顔をしていた。