「ああ……そっか。そうだよね」


お父さんが小さく咳払いをする。

多少気まずさの現れた咳払いだった。


お父さんは娘の私もあきれるほど、生活能力がない。

料理をはじめとした家事は何もできないし、自分の服がどこにあるのかさえたぶん正確に把握していない。

お米のとぎ方だって知らないし、掃除機の使い方もわかっていないらしい。

ご飯は用意されてなければ食べなくていいと判断するし、朝はお母さんに起こしてもらわないと目覚まし時計の音じゃ起きられない、とにかくダメダメな大人なのだ。


会社ではけっこう重要な役職についているらしいけれど、家では何もできない子どもと一緒。

そんな人をひとりで海外にやるなんて、確かに私も心配になる。

お母さんは絶対に、お父さんについていくべきだ。

そうしないと、海外で倒れ、入院、そのまま帰らぬ人に……なんてことになりかれない。

冗談でもなんでもなく、本気でそう思う。


「でもじゃあ……私は?」