「それで、何が原因でケンカしてるの?」
「原因って、そんなものは別に……」
「原因がないのにケンカしてるの? どうして?」
ああ~! 心のきれいな天使の視線が痛い!
私はドライヤーのスイッチを切り、軽く髪を手櫛で整えて春陽くんと向き合った。
「本当にケンカじゃないの。私が一方的に避けて、嫌な態度をとってるからなの。だから一ノ瀬くんは何も悪くないの」
「じゃあ、梓おねえちゃんが悪いの?」
一ノ瀬くんと森さんがキスしていた光景が頭に浮かぶ。
原因はと聞かれたら、あれだ。
あれで私はショックを受けて、なぜか腹立たしくて、悲しかった。
でも一ノ瀬くんはそれについてまったく責任はない。
「……うん。私が悪いの。嫌な場面を見ちゃって、私が勝手にショックを受けただけだから」
「嫌な場面って?」
「それは……」
廊下をうかがって、人の気配がないのを確認してから、そっと春陽くんに耳打ちした。


