家のダイニングテーブルで夕食後のお茶を飲みながら、目の前に座るお母さんの顔をまじまじと見た。


「……えーと、お父さんが海外赴任するのはわかったけど」

「心配しないで? 海外赴任って言っても一ヶ月くらいのことだから」


私が去年誕生日にあげた、お手製のフリフリエプロンを着たお母さんが、少女のように微笑んで言った。

お母さんの隣りに座ったお父さんは、しかめっ面で黙々と新聞を読んでいる。

別に怒っているとかじゃなく、この顔はお父さんのデフォなのだ。


「いや、心配してるわけじゃなくて。どうしてそれで、私が家を出ることになるの?」

「だってぇ。梓ちゃん、ひとりになっちゃうじゃない」

「えっ? ってことは、お母さんもお父さんについてっちゃうの?」


驚く私に、お母さんは「もちろんよ」とほがらかに笑った。


「お父さんをひとりにできるわけないことくらい、梓ちゃんにもわかるでしょ?」