クールな一ノ瀬くんからは想像もつかないけど、考えるだけで胸の奥の方がモヤモヤしてきた。

いやだな。見たくないな。

トイレにでも行って、時間つぶしてようかな。


迷っているうちに、ピストルが鳴り、走者が一斉に走り出す。


「わ、私! ちょっとトイレに……」


と、席を立とうとした時、「佐倉!」と名前を呼ばれた。

驚いて顔を上げると、うちのクラスの走者の山田がこっちに走ってくるところだった。


なんだ山田。

小鳥を借りるつもりか。

それで私に許可をとろうとしているのか。


なんて身の程知らずな……。

おととい来やがれと言ってやろうとしたのに、なぜか山田に腕をつかまれた。


「一緒に来て!」

「え……ええ!? 私? 小鳥じゃなくて?」


ちらりと横を見れば、小鳥もミーナも妙に興奮したような目で私たちを見ている。

なんでそんな嬉しそうな顔するかな?