気のせいかと思ったけど、階段下の普段資材置き場になっているスペースから話し声がして、そっとのぞいてみた。
そしてすぐ、自分の行動を後悔した。
一ノ瀬くんはいた。
でも、ひとりじゃない。
女子とふたりだった。
相手は森姉妹のどちらかだ。
似ている姉妹なのですぐにどちらか判別することはできない。
ふたりの横顔は、重なっていた。
一ノ瀬くんが壁を背にする形で、ふたりはキスをしていた。
思わず後ずさりした私の背に、何かがぶつかる。
驚いて振り返ると、いましがた一ノ瀬くんとキスをしていた女子と、同じ顔がすぐそばにあって、悲鳴をあげるところだった。
「あんた、佐倉梓?」
「そ……そう、ですけど」
ちらりと髪の結び方を確認する。
相手は森姉妹の妹、森美鈴だった。
ということは、いま一ノ瀬くんといるのは姉の方か。