風邪をひいたのが高橋くんじゃなく、私でよかった。
高橋くんが風邪をひいたら、部活も休まなきゃいけなくなっちゃうもんね。
一生懸命がんばってるのに、それはかわいそうだ。
「お前って……」
深々とため息をついた一ノ瀬くんに、布団の中で首をかしげる。
もしかして、あきれちゃったかな。バカな奴って。
私の視線に気づくと、一ノ瀬くんは軽く頭を振り、笑う。
「なんでもない。待ってろ。いま用意してくる」
「あ。あの、一ノ瀬くん」
「うん?」
「ええと……あり、がとう」
半分布団で顔を隠しながらお礼を言えば、なぜか彼は吹き出した。
軽く手を振り出て行ったけど、その背中もまだ笑いを引きずっているようで、ムッとする。
せっかく素直にお礼が言えたのに。
そう口をとがらせてはみるものの、一ノ瀬くんが笑ってくれたことがうれしくて、気恥ずかしさをすぐに忘れ、私も布団の中でこっそり笑った。


