一ノ瀬くんが笑ってる……。
慈愛に満ちたような笑顔を見て、ほっと体から力が抜ける。
寂しさや心細さが、フッと煙のように消えていった。
「佐倉。お前昨日、高橋に傘貸したんだって?」
何気ない調子で言われ、「うん」と返事をしてからハッとした。
「どうして、それを……」
「高橋が傘返そうとお前の教室に行ったら、休みだって聞いたらしくて騒いでたぞ。きっと自分のせいだって。なんで折りたたみ傘持ってるなんて嘘ついたんだよ」
「だって、部活の先輩も一緒で、高橋くん困ってたし。恩返しできるかなって思って」
「恩返し?」
いぶかし気に眉を寄せる一ノ瀬くんに、うなずく。
「前に電車で痴漢に遭った時、高橋くんに助けてもらったから。いつか恩返ししたいって、ずっと思ってたんだ。それが叶ったから、全然後悔してないよ」


