由奈先輩という人は、私に気遣うような視線を向けてきたけれど、私は何も問題ないという風に笑顔でふたりを見つめた。

高橋くんが広げた傘に、華奢な先輩が入る。


「ありがとね、佐倉さん!」


高橋くんは律儀に私に手を振ると、先輩と一緒に駆け足で雨の中校門へと真っすぐ向かう。

跳ねる雨水と足音が消えるまで、私はふたりを見送った。


そして玄関前にひとり残された私は、ふたたび空を見上げため息をつく。


「さあて、困ったぞ」


折り畳み傘を持っている、なんていうのは嘘だ。

傘は高橋くんたちに貸した、あの1本しか持ってきていない。


これは濡れて帰るしかないなあ。


でも後悔はしていなかった。

だって高橋くん、困っていたし。

私は彼の力になりたかったから。


高橋くんは私の、私と小鳥の恩人だから、ずっとどうしたら恩を返せるかなって思ってたんだ。

傘を持ってきていてよかった。


「……よし!」


満足した気持ちで、鞄を頭の上にかかげながら、雨の中へと飛びこんだ。