雨は嫌いじゃない。

でも雨の日の電車の中は、ちょっとこもった匂いがするから苦手なんだよなあ。


そんなことを思いながら、生徒玄関前に立ち、雨の降り始めた空を見上げる。

天気予報ではくもりときどき雨と言っていたけれど、雲の色は濃く、まだ雨脚は強くなりそうで、しばらく降り続くかもしれない。


今日は掃除当番だったから、少し帰るのが遅くなった。

一ノ瀬くんはきっともう駅に着いていて、私が来るのを待ってくれているだろう。

早く行かなきゃ、と傘を差そうとした時「ヤバい雨強くなってる!」と言いながら男子が隣に立った。


「え? 高橋くん?」

「あ。佐倉さん! いま帰り?」


サッカー部のジャージを着た高橋くんだった。

きれいに染まった茶髪を、ヘアバンドで上げている彼は、いつもと印象が少し違って見える。

よく見ると彼の隣には、同じジャージ姿の女子生徒がいた。