さすがに一ノ瀬くんの部屋でやるにはテーブルが狭いので、こうして場所がリビングに変わったのだ。
「私は全然大丈夫だよ? でもそんなに勉強できる方じゃないし、私の教え方、わかりにくくない?」
「全然! 梓おねえちゃんの教え方、優しくて好き!」
「ほんとに? 一ノ瀬くんに教えてもらった方がきっと確実だと……」
「兄ちゃんは教え方が“わかってて当然”って感じだからダメ!」
「うるせぇよ」
なるほどなあ。
天才は感覚で教えるっていうし、そういう意味では私が教える方がいいのかも。
相変わらず一ノ瀬兄弟はいつでもどこでもケンカばかりだけど、これが彼らなりのコミュニケーションなんだろうなと、いまはあまり気にしてない。
一ノ瀬くんは弟を「猫っかぶり」と言ってすぐ化けの皮がはがれるなんてバカにしていたけれど、二週間たっても春陽くんは天使のままなので、男兄弟特融の軽口なのかなあと思っている。


