「そんなこと、どうして一ノ瀬くんにわかるの……?」


不思議に思って聞けば、一ノ瀬くんはなぜかぐっと押し黙る。

少ししてから「高橋がそう言ってた」と声をしぼりだすようにして言った。


あの時の痴漢が私目当てだったなんて、全然知らなかったんだけど、本当にそうなの?


「勘ちがいしてない? 小鳥を狙うならわかるけど、私を狙ったってしょうがないじゃん」

「だからお前は……。何でそんなに自分を卑下すんだよ」

「別に卑下してるわけじゃないんだけど。だって小鳥の方が数千倍可愛いのは事実で真理でしょ?」

「お前だって可愛いだろ」

「……は?」


いま何か、幻聴がしたような。

一ノ瀬くんはしまったという顔をしてから、わざとらしく数回咳ばらいをした。


「とにかく、お前はもっと自覚しろ! 現に痴漢されてんだから、油断すんな!」