それなのにあの時はとにかく気持ち悪くて、すぐ傍でハァハァと興奮している男の息遣いが恐ろしくて、声が出てこなかった。

でも逃げたら今度は小鳥が痴漢の餌食になってしまう。

それだけは絶対にダメ!

小鳥のことは、私が守るんだから!


小鳥を守るためにどうすることもできず、涙をこらえて痴漢の手に震えていたところを、助けてくれたのが高橋真純くんだった。


『おい、あんた! 何してるんだ!』


そう怒鳴って、混み合う電車の中で、私と男の間に入って痴漢を遠ざけてくれた。

私は目をつむって震えることしかできず、痴漢がどんな男だったか、その男がどうなったか見届けることはできなかったけど、どうやら直後着いた駅で他の乗客を突き飛ばし逃げたらしい。


『ごめん。痴漢のおっさん、逃がしちゃって』


と後になって高橋くんに謝られ、お礼を言うのが精いっぱいだった。