「じゃあ、今からスコップ持っていくわ」

お兄ちゃんはそう言って、日比谷さんとの電話を切った。



「ちょっと、スコップってなにを埋める気?」

椅子から腰を上げたお兄ちゃんの腕をとっさに掴んだ。



「埋めねーよ。使うんだよ」


スコップを使うって……凶器に?

そっちのほうが大問題!



「お兄ちゃん。本当にいきすぎたことはやめてよ。これ以上、私たちに迷惑かけないで」


お兄ちゃんがなにかをしたら家族が責められる。

犯罪を犯すようなことはしてないと信じてるけど、100パーセント大丈夫だと言いきることはできない。



「お前はいちいちうるせーんだよ」

お兄ちゃんは勢いよく私の手を振り払って、リビングから出ていった。



お兄ちゃんはこんなんじゃなかった。


私のお皿に避けてるブロッコリーをお母さんに内緒でいつも食べてくれた。

なのに、今は一緒に「ご馳走さま」も言えない。



外から響いてくるバイクの音。カーテンから見えるヘッドライトの光が暗闇の中へと消えていく。


昔はお兄ちゃんが大好きだったのに……今は大嫌いだ。