そういえば私はお兄ちゃんが不良になってからあまり顔を見ないようにしてた。


私のことを罵倒するわけでも、家で暴れるわけでもなかったけれど、髪の毛を金髪にしてピアスを開けて、家にいるよりも外に出かけることのほうが多くなったお兄ちゃんのことを私は露骨に避けていた気がする。



「朔也って昔から変わんないよね」


「……え?」


「俺たち中学も別だったけど、こう見えてけっこう付き合いは長くてさ。今では喧嘩最強とか言われて有名になっちゃったけど、器用に見えて不器用で。冷めてるように見えて案外情に厚いところとか全然変わんないなって」


日比谷さんが柔らかい顔で笑う。


 
私は不良になったお兄ちゃんの外見ばかりに目を向けていた。

誰よりもお兄ちゃんの内面の良さを知っていたのは私だったのに。



「あと超がつくほどの妹好きも変わんない。俺が雛子ちゃんをバイクに乗せたかったのに普通に取られちゃったしね」


お兄ちゃんは滅多に人を乗せて運転はしないらしい。後ろに誰かがいると気が散るからだそうだ。


さっきは曲がる時も停まる時も、お兄ちゃんはちゃんと私を気遣ってくれた。


お兄ちゃんは変わってしまったと思い込んでいたけど……優しさが消えたわけじゃない。



「コソコソなに話してんだよ」


ハッと気付くと、お兄ちゃんが目の前に立っていた。