オネェの髭Ⅰ(短編集)

「小説請負人ハマⅠ」


私はハマ、職業作家。 貴方の為だけのオリジナル小説を書きます。 恋愛・推理・サスペンス・SF・ジャンルは問いません。

貴方の希望する小説を貴方の為だけに執筆します。 

当然、貴方の大切な人に送る小説もOKです。 

人気小説は依頼者のパラレルな自分の自叙伝。 

別世界の自分の半生を描いた小説も人気があります。 

その依頼者の生い立ちと小説にしてみたい事柄、登場人物を教えてもらいジャンルを聞いて依頼者にあった書き方をします。 内容が決まってない人は相談に応じます。 最後にこの小説は誰の為に作成するのか。 ここがポイントになり、それによってメッセージせいが変わってきます。

こんなすべり出しで客と一時間ほど打合せをしてから、制作に一週間ほど時間を掛けて書き上げるというもので、費用は一律十万円。 出張、取材が必要な場合は別途料金で請負った。 ハマの発想は今までこの業界には類がない。 評判が評判を呼び予約の依頼が多く、今日も依頼者の訪問があった。


「いらっしゃいませ」 

「小説を書いて下さい」来たのは初老の紳士。 

「はい、ではいくつか質問をさせて下さい。 まず、小説は誰のために創るものですか?」 

「妻の為です。昨年、体調不良で他界した妻の為です。 五十八歳でした」 

「内容は随筆風・恋愛風・ほか各物語風どのように描きたいですか?」 

「童話風で、妻を主人公としたケルトの妖精にしたててほしいです。 生前、妻はケルト文化の神秘的な世界が好きだったものですから……」 

ハマは一瞬目を瞑り瞑想に入った。 時間にして一瞬だったがハマには数時間の感覚があった。 ハマがいったん瞑想すると時間を超越できる能力がある。

「はい、もう私の中にイメージが湧いてきました。 あとはご主人さんをどのような場面で登場させますか?」 

「僕は要りません…… 登場させないで下さい。 妻には最後まで何一つ優しいことをしてあげられず苦労ばかり掛けてきたので、せめてこの小説は僕抜きで違う伴侶と結ばせてあげたいのです。 この小説は妻に捧げるレクイエムのつもりです」

ハマには視線をさげた依頼者の心根が辛く思えた。 

「そうですか解りました…… 今日の打合せの大筋を二~三日で通知します。 そ
れで良ければ執筆活動に入ります。よろしいでしょうか?」

「はい、お願いいたします」 

ハマは、概略の作成に取りかかった。
 
ここはイギリス、ウェールズにある小さな漁村。 古来からのケルトの風習が多く残るこの村の、ある民家の屋根裏にブラウニーという家事が好きな妖精がいた。 よく人間の手伝いをしてくれ、報酬のミルクや蜂蜜を台所の隅に置いた。 それを忘れたり仕事に文句をつけたりすると、ブラウニーは怒って家をめちゃくちゃにする事も過去になんどかあった。 また、丁寧に扱わないと悪戯好きなボガードになりさがり、更に落ちると醜くて物を壊したり投げつけたりする凶暴なドビーになってしまう。

ブラウニーはある時、人間の青年ニップに禁断の恋をしてしまう。 

ブラウニーは事あるごとに山に入り、フェニックスの落とした羽を集め、帽子を作ったり、妖精ならではの手法による、小物を作りニップにプレゼントした。 ニップもその厚意に報いるためにブラウニー専用のドールハウスを作ってプレゼントをしたりと、二人の間はだんだんと深まり、やがて恋に落ちしまった。 人間と妖精という大きな壁を抱えたまま時は過ぎた。 

ある日、ケルトの神話伝説に人間の青年に恋をした妖精がトネリコ山脈のどこかにある、ココというキノコと白龍の涙を煎じ、満月の夜に妖精が飲むと人間に変身出来るというのを耳にした。 ブラウニーはその伝説に掛けてみようと決断した。

身内から「そんな伝説には信憑性がない。 トネリコ山脈は危険な山。辞めた方がいい。
妖精は妖精同士で結ばれるべきだ!」との声も多くあった。 

そんなケルトの妖精ブラウニーの半生を描いた物語。 二日後ハマは依頼者に概略を説明した。 電話の向こうで依頼者の喜ぶ声が聞こえた。 六日間で小説は完成し製本され手渡された。 

「はい、この世でただひとつの物語です。 お読み下さい」そう言って渡された。 

四日後、お礼の手紙がハマの手元に届いた。 心のこもった感謝の手紙。 ハマは感謝の文面を読むのが生き甲斐だった。


 今日も依頼者の訪問。

「いらっしゃいませ」 

ハマは、ひととおり説明し相手の言葉を待った。

「あのう……」 

「はい?」

「こんなお願いの前例ありますか?」 

「はい!どんな事でしょうか?」 

「主人公は実は宇宙人の子で、大きくなって本当の自分に目覚め、地球を救うという使命を思い出すという内容で描けませんか?」

「はい、全然可能ですけど。 では登場人物の名前を数人教えて下さい。 二日前後にこちらから大筋を連絡します。  それでよければ一週間で仕上がると思います」 

「はい! よろしくお願いします」

二日で依頼者に概略をFAXした。


ここは渋谷駅。井の頭線へ向かう通路のコインロッカー、その中の一つから微かな声がした。 駅員はロッカーの鍵を開け中を見て唖然とした。 そこには産着に包まれ指をくわえた生後間もないと思われる女の赤ん坊が入れられていた。 駅員の通報によりその赤ん坊は警察が保護、渋谷区内の孤児院に引き取られた。 その子は生後間もないせいもあって里親が早く決まり、同じ渋谷区内の夫婦に引き取られた。 

月子と命名され、幼児期、思春期を愛情たっぷりに育てられ、月子が二十歳になったある満月の夜、たまたま近くの公園をジョギングしていた月子は突然激しい目眩がし、その場に倒れ込んでしまった。 気が付いてみると何やら身体が軽い。 や、重力が全く感じられなかった。 周囲に視線を向けてびっくりした。 そこは乳白色のブヨブヨとした狭いけどその狭さを感じさせない心地良い空間。 次の瞬間隣から声ではない声がした。 

「ニーナ ニーナ」

誰かが月子に話しかけてくる……。 

「私はニーナでありません。 わたしは月子……」

瞬間、月子に語りかけてきたその意識体が重なってきた。 

「月子、あなたはプレアデスから来た宇宙巫女。 二十歳まで地球人に育てられました。今、地球は修羅場と化し、我々宇宙の存在も大変心配してます。 あなたにはこの地球を
変える一役を生前から約束されていた」 

「……? 私、なんでよ、そんなこと知りません。 地球に返して下さい。 それにあなた達宇宙人が国連に働きかけて、直接やったらどうですか?」 

「我々には直接手を下してはいけないというルールがある。 そこで二十年前あなたを地球人として育て上げるために、生後一ヶ月のニーナを失礼ですがコインロッカーに置いてきたんです。  そして縁あって月子さんの今のご両親が育ててくれたんです。 深層意識では御両親ともニーナが生まれる前から承諾済みです。 ニーナあなたも同様に」

「チョット待ってよ。 じゃあ、私は両親と血が繋がってないと?」 

「そうです」そのまま月子は気を失ってしまった。 

その時月子はその存在から黄色い石をもらった。 その石は宇宙の存在と会話が出来る能力や他にも様々な力を秘めていた。 やがて自然に使命に目覚めた月子は地球を救うため友人を集め、地球人の意識改革を始めることになったが困難の連続。

だがそんな日々の中にも心温まる出会いがあるという、独創的なヒューマンドラマに仕上がった。 さっそくFAXした。  

依頼者はFAXを読み快諾し、数日後依頼者に本が届けられた。


ある時、ハマの友人マキコがやってきた。 

「ハマさん久しぶり。 最近はどう? 何か面白い事あった?」 

「そう簡単に面白い事なんて無いよ……」 

マキコが「私も一冊頼もうかな?」 

「あんたのなにを書くのよ?」 

「私、最近考えてる事があるんだ。 近い将来なんだけど、家も家族も全部棄てて旅に出ようかなって思ってるの。 長年の夢だった、世界中を歩き回って絵を描いてみたいの。 世界中各地の町並みをなど……」 

ハマは驚いたが冷静を装った「それ小説で実現しない?  マキコがこれから実際にやるんではなくバーチャルでやってみたらどう?」

「バーチャル?  なにそれ?」 

「マキコが実際に体験しないで小説の中だけで経験をするの。 つまり仮想現実を小説にしてしまうの。 小説の中で色んな体験をしながら旅を重ねるのよ。 費用はかけず旅をして絵も学ぶのよ。 但し、すべてが仮想でね。  だからやりたいことをどんどんやるの。 男にもなれるし神様にだってなれる。 神として人類に警告を発するなんてのはどう? 創造は自由で制限が無いから何だって出来るし思いのままよ、どう?」

「ハマ、それ面白そう。 事情があって自分の夢を追えない人や、夢を一度挫折した人が再トライして夢を達成するの。 たとえ小説の中でも形にしたら何かが変わるかもしれないよね。 なんかワクワクする……」 

「マキコ、私も夢が広がったわ。 ありがとう。これ商売になるかもしれないね? なんか喜ばれそう、ワクワクしちゃう…… さっそくマキコの夢叶えちゃいましょう。 当然無料でね! 発想のお礼」

「OK」 

この企画はたちまち世間に広がった。 特に中高年層や主婦に好評だった。

END