この世の者ではないかもしれない老婆に敬意を払いつつ、ひとつの答えを口にしてみる。


「もしかして、……俺のご先祖様……?」

「ノゾミちゃんのお祖母さんだよ、バカ息子」


鋭いツッコミとともにカーテンの隙間から姿を見せたのは、おふくろだった。


ズカズカとベッドに近づいて来たかと思えば、首に腕を回されスリーパーホールドを決められる。


「ぐぅ……! おふくろ、俺、病人だぞ……っ」

「うるさいわ! 散々、心配かけさせやがって……っ! こんなもんじゃ、全然足りないわよっ。ノゾミちゃんが救急車を呼んでくれなかったら、どうなってたか……」


気道を圧迫していた力が、緩められていく。


代わりに、こっちが恥ずかしくなるくらいに強く抱き締められた。


「マサトが目覚めてくれて、よかった……」


目覚めてくれて、よかった……か。


俺はこんな不器用な心と体だっていうのに、こうしてまだ生きてるのか。



わんわん泣き出したおふくろに為すすべなく、されるがままで瞬き繰り返し、ヨダレを垂らして寝ている少女を見る。


「……ノゾミが、倒れた俺のことを助けてくれたのか」


俺のつぶやきを拾い上げたおふくろは、涙をぬぐいながらゆっくりと離れていった。


「そうよ。あんた、昨日の夕方に倒れてさ。ノゾミちゃんには今日も学校あるし、帰るようには言ったんだけど……心配だから付き添うって譲らなくて。で、ノゾミちゃんのお祖母さんもノゾミちゃんに付き合って、ここに来てくれてるわけよ」


「そうか、………」


薄っぺらいカーテン越しに射し込む光が、朝であることを知らせてくる。