診察室を出たあと、おふくろは「手術代も全部お母さんが稼ぐから、心配するな」と気丈に振る舞っていた。


母子家庭の俺たちにそんな金は用意できないし、この命を諦めざるを得ないということは……馬鹿にだって分かる。



それを伝えればおふくろは、「どこの国に息子の命を諦める母親がいるのよ!」っと声を震わせた。



それ以来、おふくろはパートの日数を増やし続けていった。


「おふくろ、無理すんのはやめてくれ。おふくろまで身体壊したら、どうすんだよ」


「あんた頭悪いくせに変なとこばっかり心配するんだから。いい? マサトは何も心配しなくていいの、あんたはちゃんと学校にさえ通ってくれれば……」


無理をしてどんどん痩せていく彼女の姿を見るのは、居た堪れない気持ちだった。


そんなおふくろを見ていられなくて、俺は……家から徐々に距離を置いていった。