翌朝、ノゾミを迎えにきたトオルの顔は、目はいつもの3分の2しか開いておらず、癇かんで背たけが伸び切らないといったような顔をしていた。


(うわっ、機嫌悪ぃ〜)



片手で玄関の扉を開けている俺の腕の下をくぐり抜け、ノゾミがトオルの後ろへと移動する。


「天音さん、ごめん。先に降りててくれるかな。マサトとちょっとだけ、話したいことがあるから」


月9に出演している若手俳優さながらの作り笑いに気圧され、ポチはポチらしく黙って頷き、駐輪場にそのまま繋る階段を降りて行った。



「さて、……聞きたいことは山ほどあるんだが」


詮索する一歩手前の瞳が、ぎらりと光る。



「面倒くせ。ひとつにまとめろよ」


あからさまな態度を取れば、足先を少し左右に動かし、距離を詰められる。



相手も嫌そうな顔をしたままだが、ひと呼吸置いて肩の力を抜いた。


「まぁ、いろいろと尋ねる前に礼を言っておくよ。……天音さんを助けてくれて、ありがとう……、と」



こいつのちゃんと礼儀を踏まえている、こういうところが嫌いだ。


嫌悪を曝け出したまま憎まれ口を叩いてくれりゃ、俺もお前を嫌いなままでいれるのに……、っと思う。


わざわざ礼なんて言ってきやがるから、変にノゾミを抱いたりなんて、抜け駆けすることができないんだ。