「俺も、天音さんの友達の前で軽率なことしてごめん」


言葉は謝っているんだけど、顔は安心してはにかんだままの彼を、どうにも憎むことはできない。


「いいよ、許してあげる」


見つめ合い、笑い合えば、不思議な感情が込み上げてくる。


”喜び”? ”安心感”?


きっとこういう感情の積み重ねを、人は”恋愛”と呼ぶのかもしれない。


……でも。


「俺、天音さんを見つめるたびに恋に落ちてる気がするよ」


彼と一緒にいたら、新しい自分に出会えそうな気もするけれど……逆に苦しくて、張り裂けそうな切なさも、心の奥底には転がっている。


数学の難解な宿題を、英語で回答させられているような複雑な気分だ。



「ありがとう」


これ以上トオルくんを悲しませないためにも、そんな感情を必死に押し殺した。


私にはトオルくんを突き放すことなんて、できなかったんだ。


見て見ぬフリが1番罪なことであると、知っていたにも関わらず。



この時の私は……気持ちを偽ってまで、今の自分を正当化しようとしていた。