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「天音さん、大丈夫かっ?!」


「ト、トオルくん……」


涙を拭えば、橙から紺色に染まる教室に飛び込んできたトオルくんが、私を優しく抱き抱えてくれた。


先ほどまで泣いていたことに気付いたトオルくんが、嫌悪を孕んだ声音でマサトを睨み付ける。



「おい、マサト。天音さんはお前が今まで相手してきた、一夜限りの関係の女子たちとはワケが違うんだ。軽率な行動で彼女を傷付けるのは、許さないぞ」



(い、一夜限りの関係……?)


それってつまり、ワンナイトラブってやつですか?


……そう言えばガソリンスタンドで働いてる先輩も、マサトのことこう言ってたな。


『ナンパしまくってた』、って。



「はっ、いつの話だよそれ?」


鼻で笑って流そうとする男の態度に、信頼関係が擦り切れて、磨耗していく。



不安定な気持ちに落ち着かせる為に、トオルくんの制服をキュッと握り締めた瞬間。



マサトが一瞬、悲痛そうな表情を浮かべた。


(どうしてあなたが、そんな顔するの……)



心臓を掴まれているかのようにあなたの一挙手一投足で揺らされる鼓動が、私を不安にさせる。