カレイドスコープに遊びに行った時は、大学生に絡まれて戸惑うポチを遠目から見つけて、心の底から腹が立った。


(おいおい、なに勝手に絡まれんだよポチのやつ)



……他の野郎に、触れられてんじゃねぇよ。


「あ、すいません。その女、俺のモンなんで」


(……あ? 俺、何言ってんだ)


ベンチを蹴り上げながら不意に口をついて出た言葉に、自分でも驚く。



「んだよ、彼氏持ちかよ!」
「あーあ、面白くねぇ」
「さっさと言えよな、ったく」
「行こうぜ」

まるで雑魚キャラが捨てゼリフを吐いて逃げるかのごとく、ワタワタと慌てて大学生軍団は走り去っていく。


「はー、うっぜ」


ため息を吐きながら動揺を隠すようにして、冗談で相手を突き放す。


「ご主人様が帰って来たら、3回まわってワンだろうが」


そしたらアイツ、なんて言いやがったと思う?


「……助けてくれて、ありがとう……ワン」


(マジかよコイツ!)



正真正銘の、馬鹿だ。


心の中で笑いを堪えつつ、買ってきてやった肉まんを頬に押し付ける。


「ほら、食えよ。奢ってやるから」


「やったー!」

本物の犬みたいに尻尾を振って肉まんを頬張る姿を見つめながら、胸で蠢く欲望を悟る。



いつの間にか自分でも気付かないうちに……天音 希の笑顔を、守ってやりたいと思うようになっていた。


コイツの隣にいると、自信が抱えている《問題》すら霞んでしまうような気になれた。



その《問題》は決して先延ばしにはできない、そう分かっていながらも、俺は…………




天音 希という存在から、目が離せなくなっていた。