それから化粧についてひと通り説明し終えたのは、19時を回ってからだった。

「わっ、もうこんな時間だ! おばあちゃんが心配するから、そろそろ帰るね」


かき集めるかのようにペンや教科書を鞄に詰め込んで立ち上がれば、トオルくんも同じように腰を上げる。


「ああ。今日は付き合ってくれてありがとう。外も暗いし、送るよ」


マサトにも同様の申し出を受けたことはあるが、その時は『イジられるのではないか』という警戒心からくる遠慮が、先立っていた。


トオルくんは、それとはまた逆で。

『私なんぞに時間を割いて頂き、誠に申し訳ございません』という謙遜からくる遠慮が、心の中で生まれる。


「いやいや、大丈夫! ひとりで帰れるよー」


やんわりと断りを入れようとするも、無視して外に出る準備を進める彼。


「俺も男だからさ、一応、家まで送らせて欲しい」


こちらが気を悪くしないようなフレーズを選んで、わざわざ申し出てくれる優しさに、否定の言葉を飲み込んだ。


「じゃぁ、……よろです」

「やった、これでもう少し天音さんと喋れる」


喜びを含んだ幸せそうな笑顔に、なんだかこっちの方が恥ずかしくなる。


計算高いんだか天然なのかよく分からない人だな青龍院 透くんは、っと私は肩をすくめた。