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俺は天音さんから貸してもらったビニール傘を開きながら、雨の粒が弾ける音に耳を澄ませていた。


傘も貸して貰ったし、夕飯もご馳走になってしまった。


「また今度、天音さんとお祖母さんにお返しをしないとな。……それにしても、……」


餃子を自分で包むなんて、初めてだった。


ましてや自分が手の加えた料理を、誰かと一緒に食べるなんてことも。


「天音さんって、本当に優しいんだな」



その名を口にすれば、今まで体験したことのない正体不明のむず痒さが、心を占め始める。


彼女の容姿も、どんどん可愛く思えてくる。


言葉ひとつ交わすだけで、自然と笑えるような。



ー『私、青龍院くんみたいな先生がいたら良いなって思ってた』ー


俺が教師を夢見てどれだけ悩んでいるかなんて、彼女は知らない。


知る由がない。


だからこそ、素直な気持ちでそう言ってくれたことが、たまらなく嬉しかった。



クラスメイトに勉強を教えるという両親への抗いが、自分の行ってきたことが、無駄じゃないと言ってもらえているようで。