前の席に座っているハルカくんは、私の机に肘をついて意味深にニヤニヤしている。

「ハルカくんも、そんな顔しないでよー……」

「えーっ。だってぇ、なんだか見ててもどかしいんだもんっ。ムズムズする〜」


降ろしていた腰を上げてその場に立ち上がったマサトは、ふわりと香水の香りを私の鼻腔に残していく。


この独特であっさりとした香りは、雑誌によく載っているpavone(パヴォーネ)だろうか。


「あのさぁ、最初にも言ったろ? 俺のこと好きになるなって」

ぐしゃりとウルフカットの髪を乱して鬱陶しそうにされてしまい、思わず顔に熱気がこもる。

「い、意地悪してくる男子のことなんて、好きにならないに決まってるでしょ! 自惚れるのも大概にしてよ」


嗚呼、本当に嫌になる。


彼のつけている香水が自分と一緒のブランドで嬉しいなんて、少し喜んでる自分がいて……、本当に嫌になる。



嫌だなんて気持ちを通り越して、無様だ。


目の前にいる男にまんまと踊らされているようで、不甲斐なくて恥ずかしい。