「 ポチ公もよ、」


マサトの声に、ハッと現実に引き戻される。


乱れていた呼吸を整えて顔を上げれば、彼はひらひらと手を振りながら街頭の少ない住宅街の景色の中へ、混ざり合おうとしていた。



「困ってんなら、俺がいつでも助けてやるよ」


まるで胸の内を見透かされているような恥ずかしさに耐えつつも、私は首を横に振る。



「……いいよ、法外な報酬を要求されそうで怖いし」


「素直じゃねぇ女だな」


横顔で呆れつつも、マサトはそのまま足を止めなかった。



「……余計なお世話だよっ。じゃぁね、また明日」




知らず知らずのうちに自分でも深くに封じている心の傷
を曝け出して、素直になれる日がきたのなら。


私は貴方に、助けを求めてしまうのだろうか。


あんな思いはもう、したくはないのに。



「…………そんな日が来ないことを、祈るよ」



悲しい祈りは春の星空に紛れ、瞬く間に消えていった。



〈 episode.2 終 〉