突然背中を押されて体のバランスが崩れた。


「恵里菜!」


孝利があたしの名前を呼ぶが、それに答える暇もない。


何かを掴もうと伸ばした手は空を切り、あたしは池の中に落ちてしまっていたのだ。


バシャンッと派手な水音がして一気に肩まで水につかる。


しかし岸辺は水深が浅く、すぐに足が付いた。


「大丈夫? 足が滑った?」


そう言って手を差し出して来る麻由子。


その表情は嬉しそうだ。


あたしは左右に首を振り「いい」と、短く返事をしたのだった。