この日は信じられないほど静かに時間が過ぎて行った。


いつ化け物が現れるかわからないから、テレビやDVDを見ることもできない。


音を消したスマホをイジったり、本を読んだりして時間が過ぎて行く。


だけど、化け物が出ないならそれに越したことはなかった。


休憩室で台本を読んでいたあたしは、一度キツク目を閉じた。


今さら台本なんて覚えても無意味だと、ちゃんと理解している。


けれどこうして映画に関係することをしていると、気分が落ち着くのだ。


「恵里菜、大丈夫か?」


そんな声が聞こえてきてあたしは目を開けた。


少し閉じていたおかげで、目の疲れが和らいでいる。


「平気」


あたしは声をかけてくれた俊和へ向けてそう答えた。


みんなのいる前で、特別感を出しながら話しかけてほしくない。


そう思って冷たい返事をしたのだけれど、俊和はそれに気が付かずあたしの隣に座ってしまった。