1人で遺体を運ぶのは重労働だろう。


「お前らはここにいろって言われたんだ。それに、血を吸われてるから思ってるよりは軽いと思う」


孝利はそう言った。


「そっか……」


血を抜かれると人間の体は軽くなる。


そんなの普段からわかっていたことなのに、こういう時に言われるとやけに生々しく感じられた。


しばらくすると部屋の外でゴトゴトと物音が聞こえてきて、あたしは廊下を確認した。


浅野先生が白い布を1人で運んでいる。


ただの布ではなく、それは人をくるんでいるように見えた。


一瞬声をかけようかと思ったが、言葉が出てこなかった。


自分の教え子の死体を運んでいるなんて、浅野先生は今どんな心境だろうか。


そう考えると、かける言葉は失われた。


ひと通りの作業が終わるのを待って、先生はようやくあたしの存在に気が付いた。


「なんだ、休憩してればいいのに」


そう言う先生の額には汗の玉が浮かんでいた。