親友の透(とおる)ちゃんと下校していたら、
カッターを持った中年男性の変質者に遭遇した。

 私たちめがけてカッターを振りかざしながら、
いきなり襲いかかってきたので、
私はとっさに透ちゃんの前に出た。

自分なら、なにをされても痛くないから大丈夫。
そう思っていた私に、迷いなんてなくて。

実際に脇腹を刺されたけど、痛みはなかった。
 でも出血が多く、救急車で運ばれた私は、
運よく内臓に傷がつくことはなかったものの……。

 縫合処置を受けて、しばらく安静を強いられた。
 入院中、私のお見舞いに来てくれた透ちゃんが悲しそうな顔をしていたので、かけた言葉がある。


『透ちゃんが無事でよかった』


本心からそう言って笑ったら、
透ちゃんは『ごめんね』 を繰り返し、
ボロボロと涙を流していた。

 今も、あの透ちゃんの姿を忘れられない。


「私はただ、透ちゃんを守りたくてしたことなのに……。
逆に悲しませちゃった」


 これまでは、痛みを感じないことを
自分の強みのように思っていた。

 でも、親友や家族が怪我をした自分より、
傷ついた顔をしているのを見て、
自分が無意識のうちに誰かを悲しませていたのだと自覚した。

 その事件以降、両親は私に対してさらに過保護になった。
 授業に出ることは禁止されていて、
私は他の生徒と接触 しないように保健室で自習させられている。