しかもジェイルはシステインの政治全般を統括しなくてはならない。忙しさのあまり、結婚が先延ばしにされていても、国王に文句を言う者はいなかった。

「陛下がよろしければ、我々はいつでも」

 落ち着いた表情でペーターが言う。

「よし、早速準備だ。一か月後には式を挙げるぞ!」

「御意」

 もうこの国に、ジェイルと明日香の結婚に異を唱えるものはいない。すぐに彼らの結婚式予定が公になった。



 三日後。

「もっと嬉しそうなお顔をなさいませんの?」

 ドレス生地の見本の中に埋もれていた明日香は、ビアンカの声にハッとした。

 こっちの世界のファッションに一番明るい者として、ビアンカは明日香の衣装を制作する係りに抜擢されたのである。

(ビアンカ以外、私の周りはおっさんばかりだものね)

 山に籠っていたジェイルやペーターは論外。侍女はもちろんいるが、王族の装いに詳しいのはビアンカである。しかも彼女は口が堅く、友人もいないのでネタバレしにくい。

「嬉しいわよ、もちろん」

 そう答えながら周りを見回す。けど、明日香にはどれがいいのかさっぱりわからない。

(今まで自分に構ったことがあまりなかったんだなあ)