「アスカには指一本触れさせない。彼女の首がほしければ、俺を倒してからにしろ!」
獣の咆哮に似た叫びに、敵は圧倒されて動くのが遅れた。隙を突いたジェイルが、一番近くにいた敵を斬りつける。落ちた剣を拾い、二刀流になった。
「おおおおお!」
敵も叫び声を上げて次々にジェイルに襲いかかる。ジェイルは二つの剣を巧みに操り、波のように襲ってくる敵を容赦なく斬り倒した。
(強い……)
明日香はその姿を、夢でも見ているような心地で見ていた。あの優しいジェイルが、自分のために奮闘している姿が信じられなかった。
「国王陛下!」
敵の後方から声がした。アーマンドだ。彼の軍は堤防の上と下に分かれ、それぞれ敵軍を攻撃し始めた。
挟み撃ちにされることとなった敵は戦意喪失し、武器を捨てた。
「はああ……」
ひとまずの脅威は去った。安堵した明日香は、その場にへたりこんでしまう。
「大丈夫か、アスカ。怪我は?」
差し出されたジェイルの手には、誰のものかわからない血がついていた。手だけじゃない。顔や体にも、赤い飛沫が模様を作っている。
そんなことは気にせず、明日香は屈んだジェイルに抱きついた。
「もう、無茶するんだから……!」
汚れていても構わなかった。彼の体温を感じただけで、明日香の瞳から涙が溢れた。
「よしよし。もう大丈夫だから。な」
ジェイルは笑みをこぼすと明日香を抱き上げ、優しく髪を撫でた。
それ以降、追加の援軍は来なかった。冠水した城を見捨て、なすすべなく退散していったのだ。
こうしまた、システインはひとつの勝利をおさめたのである。