(もう後には引けない。毎回メンタルやられて倒れていたら、軍師なんてできない)

 戦場に立ったときから誰もが、殺して殺されることを覚悟しているはずだ。明日香のいた世界とは価値観が違う。

「さあ、王城に帰りましょう。おっとっと」

 元気さをアピールしようと体を放し、ベッドから軽やかに降りようとしたら、足元がふらついた。

「おい!」

 無様に転ぶ前に、ジェイルが明日香を抱きとめる。

「……やっぱり、ムリなんじゃないか。お前のような優しい娘に、軍師なんて」

「ジェイル……」

「やめたくなったら、いつでも言ってくれていい。俺がなんとかするから」

 強く抱きしめるジェイルの腕は、明日香のそれより何十倍も力強い。

「……ありがとう」

 明日香はぎゅっとジェイルを抱き返した。彼のにおいを吸い込むと、心の底から安心できるような気がした。