「ちょっちょっちょっちょ」
明日香は大男に見えるように、店の前でぴょんぴょんと跳び、手をひらひらと振った。
「ああん?」
「そんなに怖い顔をしていたら、他の子供たちが怯えて近寄らなくなるわよ」
大男は明日香に視線を止め、すっと周囲を見回した。新たな客は近寄らず、遠巻きにじろじろ見ているだけ。大男は弱り切った顔をした。
「やっ」
「いでっ」
隙をつき、少年が大男に蹴りを繰り出した。宙ぶらりんになっていたわりには、勢いのついた蹴りが大男の腹にめり込む。
手を放された少年は、すとんと着地した。そのまま地を蹴り、ダッシュで逃げようとする。その腕をジェイルが捕まえた。
「おい、逃げるな」
「なんだよ、放せ!」
ジタバタと暴れるが、ジェイルはびくともしない。
「暴力を振るう大人は悪いけど、お金を払わないで商品を持っていくあなたも悪いよ」
明日香に顔を覗き込まれ、少年はギッと彼女をにらみつけた。
「うるせーブス! ブーーーーース!」
キンキンと響く高い声。しかし明日香は動じなかった。小学校の時から戦国時代にはまり、本ばかり読んで女子力が足りなかった彼女は、女子にも男子にも陰口を叩かれ慣れていた。



