「あ~、いい風!」

 明日香は港から海を見渡して伸びをする。

(旅行みたいで楽しい……なんて思っている場合じゃないか)

 途中で泊まった城の部屋はどれもスイートルームみたいだったし、海は青く澄んでいる。暖かい潮風に吹かれて、明日香は深呼吸した。

「あれが船か。本物は初めて見た」

 ジェイルも明日香の隣で興味深く海に浮かぶ船を見つめている。新国王誕生のお触れは出たけれど、直接会った事がないせいだろう。周囲はジェイルの存在に気づいていても、大騒ぎはしなかった。

 おそらく、身なりの良さとお供の多さから、名のある貴族とでも思われているのだろう。

「なるほど、鉄甲船もあるのね」

 明日香は城から持ってきた望遠鏡を覗き込む。木製の大型船を鉄で覆った船が一隻あった。

「この港を出て少し行くと、小さな島の集まりがあります。そこには海賊が住んでいて、通行料を徴収しているのです。略奪や強奪はしません」

 アーマンドが説明する。

「海賊に従わないと攻撃されるので、鉄甲を施した船が作られ始めています」

「海賊は庶民の家に火を放ったり、強盗したりする?」

「いいえ。あくまでも彼らは海の支配者です。どの国にも属していません」