「そうね、あまりリラックスしすぎているとよくないわね」

 神秘の軍師と才色兼備な国王を演じなければいけない身の上だ。今すぐにでも喪服もブーツも靴下も脱いで、部屋着でだらだらしたいけど、誰かに見られるといけない。

「お前は平気なのか」

 独り言のような小さな声が聞こえ、紅茶を飲んでいた明日香は顔を上げた。

「花嫁になるはずが偽物の軍師になり、共に戦場に出るつもりか。俺はそんな危ないこと、させたくない」

 アクアマリンの瞳に見つめられ、明日香は思わずカップを置いた。

(そういうこと。それで機嫌が悪かったのね)

 穏やかな生活を取り上げられて拗ねている気持ちもなくはないだろう。だけど、ジェイルが自分の心配をしてくれていたと思うと、明日香は嬉しくなる。

「大丈夫よ。こんな情勢でも、毎日ずーっと戦争が続くわけじゃないでしょう?」

 ジェイルが住んでいた山のふもとの街に侵攻してきた敵兵は、アーマンドとは別の隊に鎮圧されたらしい。大規模な侵攻ではなく、国王に気づかれないようにジェイルを拉致して人質にする目的だったのだろう。

 それからしばらく、新たな衝突は起きていない。戦国時代もそうだが、毎日欠かさず戦争をしているわけではない。