力なく差し出された手を、ジェイルは躊躇しつつも優しく包みこんだ。

(これがこの国の国王。ジェイルのお父さん)

 明日香はジェイルの隣で、その顔をじっと見つめた。嬉しそうに細められた目尻に皺が寄る。

「お前と別れたのは、もう二十年前……まだお前が五歳のときか。長いこと辛い思いをさせてすまなかった」

「辛いことなどありません。ペーターがよく尽くしてくれましたから」

 ジェイルの言葉に、ペーターの目に涙が浮かんだ。

「国王陛下が殿下を遠ざけられたのは、理由があります」

 話すのもつらそうな国王の代わりに、アーマンドが口を開く。

「継承争いから遠ざけるというのも嘘ではありません。しかしそれ以外に、バート卿も知らぬ、理由があったのです」

「なんだと?」

「私の大叔父が神官だったのを覚えていらっしゃいますか」

 ペーターは首を横に振った。アーマンドは無理もないと言う風にうなずいた。

「大叔父は殿下がお生まれになったとき、夢で神のお告げを受けたのです。殿下こそ、次の国王になるお方だと」

 ジェイルは首を横に振った。

「俺は占いなど信じない。ばかばかしい思い込みだ」

「占いではありません。神のお告げです」

 アーマンドは固い表情のまま話を続ける。

「殿下は外国から優秀な軍師を得て、この国を戦乱の世から救う。大叔父の夢枕に立った神が、そう予言したそうです」