「罠でないという保証はどこにある」

 アスカはハッとした。戦国武将でも、「死に目に会いに来てくれ」と頼まれて行ったら実は罠で、兄弟に殺された……なんてことはざらだ。

「行かない方がいいわ、ジェイル」

 明日香はジェイルの腕を掴んだ。ここから離れたら、彼が知らない人になってしまうようで怖かった。

「拒否されますか。しかしこのままここにいれば、また敵国の者に狙われます。ところで、このお嬢さんは?」

 厳しい顔でジェイルを見つめる彼は、明日香に視線を移した。

「俺の妻だ」

 あっさりと言い放ったジェイルに、アーマンドは目を見開いた。

「王族の結婚は、国王陛下の許可なしにはできないはずですが?」

「幼い頃に城を追い出されて、俺は庶民になった。王族のつもりは全くない」

 ジェイルの頑なな態度に、アーマンドは小さくため息をついた。

「あなたにその気はなくとも、その血はたしかにシステイン国の王族の流れをくんでいるのです。どこの馬の骨ともわからぬ娘に、その血を穢されるわけにはいかない」

 剣先が、明日香の鼻先に届きそうな勢いで突き付けられる。明日香はその先端を凝視できず、目をつむった。

「やめろ!」

 ジェイルが怒鳴る。

「彼女を傷つけたくなければ、一緒に来ていただきましょう」