今は古墳の周りはロープが張られており、手を触れられないようになっている。明日香はロープの外から、携帯で写真を撮った。何枚も、何枚も。
満足した明日香は、ぐるりと古墳の後ろ側に回る。生い茂る木々の中、土を踏み固めて作られた階段があるのを、彼女は知っていた。
この階段から、誰でも古墳の頂上に登れるようになっている。息を切らせて頂上に辿り着いた明日香を、小さな社が出迎えた。
「はあ、心が洗われる~……」
国道に近い住宅地の中にぽつりと残された緑の丘で、明日香は伸びをした。深く深呼吸した後、ゆっくりとかがむ。社についている小さな賽銭箱に小銭を入れ、手を合わせた。
「早く宝くじが当たって、仕事辞められますように」
古墳の頂上の社に神頼みしてしまうくらい、明日香は病んでいた。
(今日は日曜……ああ嫌だ)
去年の春から地元の信用金庫に就職した明日香は、一年半経って既に辞めたくなっていた。
いじめられているわけではない。何が嫌ってわけではないが、とにかく嫌なのだ。
(毎日同じことの繰り返し。客商売なんてやめておけばよかった)
真面目に仕事をしているのに、変質的な客にいちゃもんをつけられたり。積立預金や定期預金のノルマが達成できないと、しつこく責められたり。