「あんまり、思わないけど……。私、ここの生活けっこう好きだよ。ジェイルと一緒にパンを焼いたり、森を散歩するのも……」
声が震える。出ていけと言われたらどうしよう。そんな心配ばかりが明日香の心に渦を巻く。
「そうか。よかった」
真顔だったジェイルがふっと緊張を解く。
「じゃあ、アスカ。怒らないで聞いてくれ」
柔らかく繋がれた手に、きゅっと力がこもる。アクアマリンの瞳が、明日香の黒い瞳を見つめた。
「アスカ。俺の妻になってくれないか」
低い声で語られた言葉を、明日香は聞き逃さなかった。目を見開く彼女に、ジェイルは続ける。
「会ったばかりで戸惑うと思う。けど、俺は本気だ。お前といると、不思議と心が安らぐ。それにお前は……今まで俺が出会ったどの女性より、美しい」
そんなことを言ってくれる男性は、元の世界にいなかった。明日香は泣きそうになる。ちょっといいなと思う男性は学生時代にいたけれど、みんな明日香が歴史オタクだと知ると、すっとフェードアウトしてしまうのだった。
「ずっと傍にいてくれないか」
本気のプロポーズ。しかも生命力溢れるイケメンから。いや、大好きな相手から。
(日本なら付き合う期間がほしいところだけど、異世界だからそんなの不要!)



