夜が明ける。運命の朝が来た。

 山の間から差し込む陽光が、明日香たちの行く手を照らす。

「行くぞ、者ども!」

「おう!」

 ジェイルの掛け声に応え、システイン軍は一気に山を下る。目指すは城を包囲したバックス軍だ。

 濡れた下り坂を行くのは、決して楽ではなかった。ぬかるみに足を取られ、草の上で滑る。

「かかれ!」

 最後尾をペーターに支えられた明日香が追い付いたときには、すでに最前線が敵の軍と衝突していた。

 刃がぶつかり合う音がそこらじゅうから響く。

 この度、システイン軍は鉄砲を持っていない。嵐で火薬が湿っては役に立たないから。荷物になるだけなので、出発前に置いてきた。

 軽装備のシステイン軍は、重い甲冑をつけ、鉄砲まで腰にぶら下げたカルボキシル軍を圧倒する。

「奇襲とは卑怯な」

 奥歯をぎりぎりとこすり合わせたのはバックスだ。かつてはシステインいちの智将と呼ばれた彼は、激しく後悔していた。

 彼は勝利を急ぐあまり、相手の裏の裏まで読むことを忘れていた。嵐の中で援軍がくるとは、思ってもみなかったのだ。何より、城にいると思われた国王が、目の前にいる。

「何をしている! 国王だ。国王の首を取れ!」