無農薬野菜に適度な運動、早寝早起き。それらがいい効果を発揮しているのは確かだが、何よりストレスがなくなったことが一番大きな理由だろうと明日香は思う。

(仕事に行かなくていいって素敵……)

 温かい風に吹かれて、明日香はぼんやりと遠くを見つめた。ブルーライトのない世界は、目にも優しい。

(異世界最高じゃん)

 日本のような豊かな生活はできなくても、明日香はじゅうぶん幸せを感じた。両親のことを思うと胸が痛むが、帰る方法がないのだから仕方がない。

「そろそろ戻ろうか」

 振り返ると、ジェイルが立っていた。

 彼は親切で、明日香が現れた翌日に山のふもとの街に出かけ、女性用の服や下着を調達してくれた。

「はい」

 ごつごつと骨ばった手をとり、明日香は立ち上がる。

(なにより、ジェイルに拾われたことが幸運だったな……)

 彼は異世界から来た明日香を受け入れ、妹のようにかわいがってくれている。

 毎日行動を共にするうち、明日香は彼に惹かれていく自分の気持ちに気づいていた。

 自給自足の生活を営める知恵と体力を持った男は、元の世界にはそういない。ジェイルの優しさと力強さは、明日香の心を掴むにじゅうぶんだった。