「頭領、あっちで馬を貸してくれるってよー」

 探索に出ていた海賊が帰ってきて、ディケーターに向かって手を振った。

「よし、すぐに向かおう。誰か、一足先に王妃様が戻ったと城に伝えろ。残りは船に残れ」

「了解でーす」

 背の高い海賊の間から、ぴょこんとディケーターの娘が飛び出す。

「オレも行く!」

「ならん。お前は船の中で待て」

 いくらシステイン領地とはいえ、どこに敵軍が潜んでいるかわからない。承知しているのか、娘は文句を言わず、頬を膨らませて船の中に戻る。

(もうすぐ会えるよ、ジェイル)

 明日香はディケーターと、配下の海賊数人を連れて出発した。やけにドキドキして、呼吸もしづらい気がした。



 城に続く山道に入った途端、システインの見張り兵士に出会った。

「王妃さまが、王妃さまが~!」

 彼は泣いていた。喜んでいるのか悲しんでいるのかわからない。そして、馬に乗ったと思うとすごい勢いで城に向かっていった。ジェイルに報告をしに行ったのだろう。

「幽霊だと思われたかな」

「それもあるかもしれない」

 ディケーターは笑った。明日香は彼の背中につかまり、馬に跨っている。

(元の世界で何日か過ごしただけで、こっちではふた月も経っていたとは。今さら戻って、なんて言われるか……)

 必死に自分を探してくれていたジェイルの夢を見た。けれどそれは、もうふた月前の話ということになる。